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更新履歴と、各物語のあらすじと、簡単な登場人物紹介。
ネタバレ注意。
気づいたら増減して


0717 Fragile+1


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5.太らない体質

 時刻は十一時過ぎ、もうすぐ日付が変わろうとしていた。
「ヨウさんパスタ食べたい。作って」
「さっきバーガー食べただろ? まだ食うのか?」
「だって今日朝ご飯も昼ご飯も食べ損ねただもん。しかも部活あったし、バーガーだけじゃ足りない」
「はあ……売上に貢献してくれんのはありがたいけど」
 ヨウは背を向けて、調理をし始めた。レオはその姿を眺めながら、できあがるまで音楽を聴くことにした。
 お酒を飲みながら歌を口ずさんでいると、入口がゆっくりと開かれた。
「いらっしゃいませ」
 一瞬だけ顔を向けてヨウは挨拶をした。音楽に没頭していたレオは気づいていない。
「あ、レイネ。来てるんだ」
「秘密知っちゃったんですか?」
「まあね」
 テンは苦笑しながら、レイネと一つ席を空けて座った。
「こんばんは」
 耳からイヤフォンのコードが垂れていることは分かっていたので、肩を叩いて声をかけた。
 彼女は口で「あ」という形を作り、すぐにイヤフォンを外した。
「こんばんは」
「うん。久しぶり」
「そうですね」
 レオは機械本体にコードを巻きつけポケットにしまった。丁度いいタイミングでレオの注文したパスタはテーブルの上に置かれた。
「テンさん何にしますか?」
「ん、じゃあとりあえず」
 メニューからテンは適当に注文した。
「何か食べないんですか?」
「この時間食べたら太っちゃうでしょ。リーダーから気をつけるように言われてるの」
「えー食べないと死んじゃいますよ」
「死ぬって大げさな。レイネはしっかり食べるよな」
「うちお腹空いたら時間に関わらず食べるようにしてますよ。食べないとストレス溜まっちゃう」
「太らないの?」
「そういえば太りませんね。急激に体重増えたことないし」
 話しているうちにヨウはテンにお酒を出した。
「こいつ全然変わらないですよ。夜遅くにがっつり食べてるのに、そういう体質なんでしょうね」
「羨ましい。うちのリーダーみたいなもんか。あいつも普通に食べるくせに太らないからね。友達からは羨ましいって言われるでしょ?」
「よく言われますねえ」
 レオは過去を思い出しながらしみじみと言った。まだ湯気を発しているパスタをフォークで器用に巻いて口に運んだ。
「うわあ、見てると俺も食いたくなるなあ」
「食べます?」
 おもむろに次に食べようとして巻いた分をテンの口元に差し出した。
「や……いいです。ありがと」
 テンは驚いて言葉に詰まったがちゃんと断った。気のないレオの行動だが、なぜか調子が狂ってしまう。その心境に気づいたヨウと目が合い、小さく溜息をついた。

4.リングとネックレス

 レオは友達に付き合って、大学近くの書店に来ていた。友達はファッション雑誌をあさり始める。そのコーナーは混雑していたので、レオは別の場所で時間を潰すことにした。ふと通ったコーナー見ると、リンクスが表紙の雑誌を見つけた。少し悩んで人もあまりいなかったので、読んでみることにした。
 初めてメンバー全員の顔を見た。テンはバンドのボーカルとあって、やはり一番いい顔をしていた。ボーカルだからか、他のメンバーよりも少し前に出て映っていた。
 開いてみると新曲を出すらしく、個々のインタビューが載っていた。テンはソロもやっていたので、ソロについてやバンドについても語っていた。ミュージシャンとして顔を初めて見たので、レオはおかしくなって口に笑みを作ってしまった。自分の変化に気づいてすぐに顔を引き締めるが、やはりおかしくて笑いそうになる。今までテンは音楽しか見ていなかった。そして人として見て、今度は芸能人として見ている。ポーズを取って映っている彼に笑いは止まらなかった。
 そこでレオはある箇所に目を奪われた。開けたシャツの間から見えるネックレス。ハートの形をしていた。思わず縫い止めていた口を開けた。そのネックレスには見覚えがあったからだ。
 それはテンと初めてあった時にリングと交換したものだった。アクセサリーを集める趣味があるレオの所持品を物色し、欲しいとねだってきたのでテンのリングと交換した。それをテンは雑誌の撮影で胸元につけていた。
 ハートのネックレスはレオが高校生の時に購入したものだ。雑貨屋で高校生のレオには
高い買い物だった。しかし、テンにとっては限りなく安物で、とても雑誌の撮影に身につけていいような代物じゃない。
 レオは雑誌を持ったまま固まった。
「雑誌買ってきたよ。レオもそれ買うの? 珍しい」
「あ、あ、うん。買おうかな」
 購入を終えた友達に声をかけられ、レオは頷いていた。
「あーリンクスじゃん。そういえばレオ好きだったよねえ。テン、マジかっこいいし」
「うん。そうだね」
 レオは相槌を打ちながら、財布を出そうとカバンを探った。その時にパーカーの下に潜んでいたネックレスが顔を出した。
「今日そんなのつけてたんだ? それ新しくない?」
 気づいた友達が言った。
「新しいっちゃ新しいかな」
「デザインかっこいい。どこの?」
「どこだっけ? 貰いものだから分かんないや」
「てか、何か高そ……」
 彼女は胸元に揺れるネックレスと手に取っていった。細身のリングに茨が描かれ中央には黒い石がはめられているものだった。
「これリングじゃないの?」
「ぶかぶかだったからネックレスにしたんだ」
 レオが答えると、友達の顔が嬉しそうに笑みを作った。
「男から?」
「じゃうちこれ買ってくる」
 後ろで文句を言いながらついてくる友達を無視して会計に向かった。

   ※

 休憩をしているところにアキヒコがやってきた。
「お疲れ」
「おう」
 テンが気づいて声をかけると、アキヒコは手を挙げて応えた。缶コーヒーを持って隣に座る。アキヒコがプルタブを起こす音を聞きながら、口に煙草を運んだ。
「あれ最近つけてねえな」
「ん?」
「一目惚れして買った茨のリング。気に入ったって言ってたじゃん」
「ああ、あれね。まあちょっと」
「代わりにそれよくつけてんよなあ」
 アキヒコは缶を持ったまま、テンの胸元を指差した。テンは指された物体を指で触れた。その輪郭を確かめるようになぞる。
「ハートとか珍しいじゃん。どこのブランド?」
「さあ貰いものだから知らない」
「貰いもの? 誰から?」
 尋ねられてテンはどう答えればいいか悩んだ。まさか女子大生に貰ったとは言えない。正確には交換だが。
「お、もしかして女か?」
 アキヒコの感は鋭い。意気揚々と質問を投げてくる。テンに見えた女の影に興味津々の様子だ。
「レオ君ですよ。新しい飲み仲間」
「ほんとか?」
「ほんと」
「ちえーつまんねえ」
 アキヒコは盛大な溜息をついて背もたれに背中を預けた。テンはそれを横目で見ながら、ネックレスと再度触った。

3.真夜中トーク

「あんな人多い中で音楽聴きたくない」
「違う!」
「声大きいですよ」
 冷めたような視線をテンに向ける。随分と飲んでいるはずなのに全然テンションが変わらない。テンは酔いが回って高揚した気分だと自覚していた。
「何がそんなにいいんです? ライブ映像見てるだけで、俺はお腹いっぱいですよ。行く気なんてさらさらしません」
「分かっちょらんなあ。イヤフォンで音楽聴いたって、それは一人エッチするようなもんじゃけん」
「……はあ?」
「一人エッチで得られる快感、それもええ。でもそれが本物だと言えんのか?」
 テンはレオに意見を求めた。指でつまんだプリッツがマイク代わりのようだ。
「言え、ない?」
 疑問形になりながらも、レオは答えた。
「そう!」
「だから声がでかいですって」
「……はい」
 鋭さの増した声にテンは落ち着いた。
「本当に違うんだよ。絶対損させないから来てみい。いかせてあげるよ」
「いちいち何でエロい方向に繋げるんですか?」
「だってエロは大事でしょ」
「そうなんですか?」
「君も男ならそうでしょ。二十歳なんてエロいことばっか考えるでしょ。俺は今でも変わらんけど」
「俺はあんまり興味ないですね。友達の話はたまに聞かされますが……」
「うっわそれすごい不健康」
「そんなもんなんですか?」
 相槌は打つが完全に興味はない。酒を快調に口に運んでいる。テンはその様子をぼんやりと眺めた。
「何ですか?」
「いや、全然酔わないなって思って」
「結構酔い回ってますよ」
「えー嘘だ」
「ほんとですって。キスとかすれば分かってくれます?」
 レオはふざけるようにぐっと顔を近づけた。
「俺するの専門」
 少しだけ見つめ合って、レオはすぐに顔を離した。
「なんて。いるんですよね。友達に寄ったらキス魔になる人が。もうこの前なんか相当キスされましたよ」
「レオ君は乱れないの?」
「今までに乱れたことはないですね」
「じゃあ俺が初になってやろうっと」
 テンはレオの空になったグラスにワインを注いだ。
「じゃあテンさんも」
 レオもまだ途中のグラスに並々に注ぐ。
「うっわ、それは注ぎ過ぎでしょ」
 もうすっかりテンは秘密を暴くことを忘れていた。レオも飲むことにすべての意識が向けられて、仕掛けたことを頭の奥に追いやられている。
 二人の夜は始まったばかりだった。

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HN:
真崎 束音
性別:
非公開

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