時刻は十一時過ぎ、もうすぐ日付が変わろうとしていた。
「ヨウさんパスタ食べたい。作って」
「さっきバーガー食べただろ? まだ食うのか?」
「だって今日朝ご飯も昼ご飯も食べ損ねただもん。しかも部活あったし、バーガーだけじゃ足りない」
「はあ……売上に貢献してくれんのはありがたいけど」
ヨウは背を向けて、調理をし始めた。レオはその姿を眺めながら、できあがるまで音楽を聴くことにした。
お酒を飲みながら歌を口ずさんでいると、入口がゆっくりと開かれた。
「いらっしゃいませ」
一瞬だけ顔を向けてヨウは挨拶をした。音楽に没頭していたレオは気づいていない。
「あ、レイネ。来てるんだ」
「秘密知っちゃったんですか?」
「まあね」
テンは苦笑しながら、レイネと一つ席を空けて座った。
「こんばんは」
耳からイヤフォンのコードが垂れていることは分かっていたので、肩を叩いて声をかけた。
彼女は口で「あ」という形を作り、すぐにイヤフォンを外した。
「こんばんは」
「うん。久しぶり」
「そうですね」
レオは機械本体にコードを巻きつけポケットにしまった。丁度いいタイミングでレオの注文したパスタはテーブルの上に置かれた。
「テンさん何にしますか?」
「ん、じゃあとりあえず」
メニューからテンは適当に注文した。
「何か食べないんですか?」
「この時間食べたら太っちゃうでしょ。リーダーから気をつけるように言われてるの」
「えー食べないと死んじゃいますよ」
「死ぬって大げさな。レイネはしっかり食べるよな」
「うちお腹空いたら時間に関わらず食べるようにしてますよ。食べないとストレス溜まっちゃう」
「太らないの?」
「そういえば太りませんね。急激に体重増えたことないし」
話しているうちにヨウはテンにお酒を出した。
「こいつ全然変わらないですよ。夜遅くにがっつり食べてるのに、そういう体質なんでしょうね」
「羨ましい。うちのリーダーみたいなもんか。あいつも普通に食べるくせに太らないからね。友達からは羨ましいって言われるでしょ?」
「よく言われますねえ」
レオは過去を思い出しながらしみじみと言った。まだ湯気を発しているパスタをフォークで器用に巻いて口に運んだ。
「うわあ、見てると俺も食いたくなるなあ」
「食べます?」
おもむろに次に食べようとして巻いた分をテンの口元に差し出した。
「や……いいです。ありがと」
テンは驚いて言葉に詰まったがちゃんと断った。気のないレオの行動だが、なぜか調子が狂ってしまう。その心境に気づいたヨウと目が合い、小さく溜息をついた。
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