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3.真夜中トーク

「あんな人多い中で音楽聴きたくない」
「違う!」
「声大きいですよ」
 冷めたような視線をテンに向ける。随分と飲んでいるはずなのに全然テンションが変わらない。テンは酔いが回って高揚した気分だと自覚していた。
「何がそんなにいいんです? ライブ映像見てるだけで、俺はお腹いっぱいですよ。行く気なんてさらさらしません」
「分かっちょらんなあ。イヤフォンで音楽聴いたって、それは一人エッチするようなもんじゃけん」
「……はあ?」
「一人エッチで得られる快感、それもええ。でもそれが本物だと言えんのか?」
 テンはレオに意見を求めた。指でつまんだプリッツがマイク代わりのようだ。
「言え、ない?」
 疑問形になりながらも、レオは答えた。
「そう!」
「だから声がでかいですって」
「……はい」
 鋭さの増した声にテンは落ち着いた。
「本当に違うんだよ。絶対損させないから来てみい。いかせてあげるよ」
「いちいち何でエロい方向に繋げるんですか?」
「だってエロは大事でしょ」
「そうなんですか?」
「君も男ならそうでしょ。二十歳なんてエロいことばっか考えるでしょ。俺は今でも変わらんけど」
「俺はあんまり興味ないですね。友達の話はたまに聞かされますが……」
「うっわそれすごい不健康」
「そんなもんなんですか?」
 相槌は打つが完全に興味はない。酒を快調に口に運んでいる。テンはその様子をぼんやりと眺めた。
「何ですか?」
「いや、全然酔わないなって思って」
「結構酔い回ってますよ」
「えー嘘だ」
「ほんとですって。キスとかすれば分かってくれます?」
 レオはふざけるようにぐっと顔を近づけた。
「俺するの専門」
 少しだけ見つめ合って、レオはすぐに顔を離した。
「なんて。いるんですよね。友達に寄ったらキス魔になる人が。もうこの前なんか相当キスされましたよ」
「レオ君は乱れないの?」
「今までに乱れたことはないですね」
「じゃあ俺が初になってやろうっと」
 テンはレオの空になったグラスにワインを注いだ。
「じゃあテンさんも」
 レオもまだ途中のグラスに並々に注ぐ。
「うっわ、それは注ぎ過ぎでしょ」
 もうすっかりテンは秘密を暴くことを忘れていた。レオも飲むことにすべての意識が向けられて、仕掛けたことを頭の奥に追いやられている。
 二人の夜は始まったばかりだった。
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真崎 束音
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