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4.リングとネックレス

 レオは友達に付き合って、大学近くの書店に来ていた。友達はファッション雑誌をあさり始める。そのコーナーは混雑していたので、レオは別の場所で時間を潰すことにした。ふと通ったコーナー見ると、リンクスが表紙の雑誌を見つけた。少し悩んで人もあまりいなかったので、読んでみることにした。
 初めてメンバー全員の顔を見た。テンはバンドのボーカルとあって、やはり一番いい顔をしていた。ボーカルだからか、他のメンバーよりも少し前に出て映っていた。
 開いてみると新曲を出すらしく、個々のインタビューが載っていた。テンはソロもやっていたので、ソロについてやバンドについても語っていた。ミュージシャンとして顔を初めて見たので、レオはおかしくなって口に笑みを作ってしまった。自分の変化に気づいてすぐに顔を引き締めるが、やはりおかしくて笑いそうになる。今までテンは音楽しか見ていなかった。そして人として見て、今度は芸能人として見ている。ポーズを取って映っている彼に笑いは止まらなかった。
 そこでレオはある箇所に目を奪われた。開けたシャツの間から見えるネックレス。ハートの形をしていた。思わず縫い止めていた口を開けた。そのネックレスには見覚えがあったからだ。
 それはテンと初めてあった時にリングと交換したものだった。アクセサリーを集める趣味があるレオの所持品を物色し、欲しいとねだってきたのでテンのリングと交換した。それをテンは雑誌の撮影で胸元につけていた。
 ハートのネックレスはレオが高校生の時に購入したものだ。雑貨屋で高校生のレオには
高い買い物だった。しかし、テンにとっては限りなく安物で、とても雑誌の撮影に身につけていいような代物じゃない。
 レオは雑誌を持ったまま固まった。
「雑誌買ってきたよ。レオもそれ買うの? 珍しい」
「あ、あ、うん。買おうかな」
 購入を終えた友達に声をかけられ、レオは頷いていた。
「あーリンクスじゃん。そういえばレオ好きだったよねえ。テン、マジかっこいいし」
「うん。そうだね」
 レオは相槌を打ちながら、財布を出そうとカバンを探った。その時にパーカーの下に潜んでいたネックレスが顔を出した。
「今日そんなのつけてたんだ? それ新しくない?」
 気づいた友達が言った。
「新しいっちゃ新しいかな」
「デザインかっこいい。どこの?」
「どこだっけ? 貰いものだから分かんないや」
「てか、何か高そ……」
 彼女は胸元に揺れるネックレスと手に取っていった。細身のリングに茨が描かれ中央には黒い石がはめられているものだった。
「これリングじゃないの?」
「ぶかぶかだったからネックレスにしたんだ」
 レオが答えると、友達の顔が嬉しそうに笑みを作った。
「男から?」
「じゃうちこれ買ってくる」
 後ろで文句を言いながらついてくる友達を無視して会計に向かった。

   ※

 休憩をしているところにアキヒコがやってきた。
「お疲れ」
「おう」
 テンが気づいて声をかけると、アキヒコは手を挙げて応えた。缶コーヒーを持って隣に座る。アキヒコがプルタブを起こす音を聞きながら、口に煙草を運んだ。
「あれ最近つけてねえな」
「ん?」
「一目惚れして買った茨のリング。気に入ったって言ってたじゃん」
「ああ、あれね。まあちょっと」
「代わりにそれよくつけてんよなあ」
 アキヒコは缶を持ったまま、テンの胸元を指差した。テンは指された物体を指で触れた。その輪郭を確かめるようになぞる。
「ハートとか珍しいじゃん。どこのブランド?」
「さあ貰いものだから知らない」
「貰いもの? 誰から?」
 尋ねられてテンはどう答えればいいか悩んだ。まさか女子大生に貰ったとは言えない。正確には交換だが。
「お、もしかして女か?」
 アキヒコの感は鋭い。意気揚々と質問を投げてくる。テンに見えた女の影に興味津々の様子だ。
「レオ君ですよ。新しい飲み仲間」
「ほんとか?」
「ほんと」
「ちえーつまんねえ」
 アキヒコは盛大な溜息をついて背もたれに背中を預けた。テンはそれを横目で見ながら、ネックレスと再度触った。

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真崎 束音
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