「俺はお前が大嫌いだよ」
そう言って彼は体の向きを僕に向けた。僕は彼をずっと見ていたから、いきなり振り向かれて少し驚いた。まさか向くとは思っていなかった。
強い視線が重ね合わされる。
「僕だって君は嫌いだ」
負けじと言った。強がりではなく本心だ。
「ふん。お前みたいな甘えん坊に好かれたくないね」
「甘えてる?」
「甘えてるじゃないか。いつまでそこにいるんだ?」
彼は僕の下にある地面を指差した。
「そこってここ?」
僕は両手を広げた。
「ここではないここ。そこもここだ。そんなところに何の意味がある?」
嘲るような物言いをする。
「外は危険だ」
「何が?」
「棘だらけ。歩けば刺さる」
「何もないよ。出てみろよ」
「君には見えないかもね。強いから」
「お前はくそ弱いな」
彼のストレートな一言に僕は黙った。肯定する気力も否定する気力も湧かない。あの空のように空っぽだ。
「棘も痛みも、全部お前の妄想じゃないか」
僕は視線だけで反抗した。
「本当に傷つけられたことなんてないくせに」
「黙れよ」
腹の底から声を出した。
「分かってるだろ? お前が勝手に思い込んで傷ついて、それを他人のせいにして、殻に閉じ籠ってる。はた迷惑な生き方だ」
「黙れ!」
「久々に聞いたなお前の大きな声。大体ここは俺の世界だぜ。俺が何喋ろうが、俺の勝手」
「僕の世界だ」
彼に近づいて、地面へと倒した。彼は抵抗しない。僕はゆっくりと首に手をかける。恐ろしく冷たい。
「俺を否定するか?」
首に彼の手がかけられた。手も、声を上げそうになるぐらい温度がなかった。
「早く殺せばいい。ほら、力を入れろ」
彼は僕を誘導する。でも、手首から先に力が入らない。
「死んじゃうよ。いいの?」
声が震えていることくらい自分でも分かっていた。
「やってみろよ」
彼は笑っている。死を怖がっていない。殺されるとも思っていない。僕の心をすべて分かっていた。手から伝わるのは彼の体温だけ。
「君なんて、大嫌いだ」
それでも離れられない。僕達は繋がっている。