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2.友達

 辞書のお礼と言ってヒデが連れて来たのはファーストフード店だった。
「本当に何でもいいの?」
「おう! でもこの中からな!」
「それ何でもいいって言わないけど」
 ヒデが自信満々に広げた携帯クーポンを奏では一蹴した。溜息を吐いてカナデは携帯を見て、「これ」と指差した。
「飲み物は?」
「コーラ」
 ヒデはカナデの注文を伝え、自分も携帯クーポンから選び店員に言った。番号札を受け取り、窓側の席に腰を下ろした。
「初めて話すよなあ」
「多分」
「ていうか俺お前の名前知らなかったんだけど、一学期からいた? 俺顔見たら大体名前言えるのに」
「いたよ」
「それはチェックしてなかったあ。でも覚えた。カナデ」
 ヒデが下の名前で呼ぶとカナデは目を見開いた。
「……何で?」
 一呼吸置いて質問が来る。
「何でって何が?」
「下の名前」
「え? 呼んじゃいけなかった? 今日から俺達友達だから、呼ばせてよ」
 何を意識したわけでもない。自然と出した言葉でカナデは不信な目つきをヒデに向けてきた。
「何で?」
 冷たさの増した質問だった。ヒデは足りない脳で必死に考えた。おかげですぐに言葉を紡ぐことができなかった。
「俺はただ辞書を貸して、その見返りにおごられてるだけ。それ以外に何もないだろ」
「何もなくねえよ! 俺とお前の間に交流が生まれた。それってすごいことじゃね? 今日俺が辞書持ってきてたらこんなこと起こらなかった。お前の名前も三年間知らなかったかも知れないじゃん。だから、友達」
 自信満々に告げると、眼鏡の奥で目の色が変わった。少しだけ優しくなった。
「あんた馬鹿だね」
「はは、よく言われる」
 事実ヒデはお世辞にも好成績とは言えなかった。
「俺カナデって呼ぶから、俺のこともヒデって呼んでよ。みんなそう呼んでるし」
「頂きます」
「ちょいちょい無視かよ!」
 カナデは一瞥もくれず静かにハンバーガーを食べ出した。
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真崎 束音
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